大切にしていたボールペンを失くしてしまった。
それほど高価なものではないとは思うが、
適度な重さがあり、
質感もよく、
握りやすく、
何より書き味が最高だった。
黒、青、緑、赤をノック式で選べて、
シャープペンシルも使うことが出来た。
長く使用して黒のインクがなくなり、
替えのインクを求めて文房具店に行ったら、
uniのジェットストリームという製品らしく、
「これは書きやすいんだよね」
と店主も言っていたほどだ。
替え芯を求めて交換して使うほど、
このボールペンは手放せないほど重宝していた。
品の機能的にはこのようなものだったのだが、
何よりもこのボールペンは、
もう何年前か忘れてしまったけど、
妻からの誕生日プレゼントだった。
本体のボディーに、
ぼくのニックネームを印字してくれた、
愛のある一品だったのだ。
このボールペンを失くした、
久しぶりにショックをうけた。
その日、
昼過ぎに時間が出来て、
自転車で事務所から少し離れた場所にある信用金庫と、
ついでにそのそばにある銀行と、
そのそばにある飲食店に行って遅めの昼食をとった。
その帰りに、
通りの向かいにある靴屋さんが気になって、
ちょっと覗いてみることにした。
その頃よく履いていた靴が2足、
黒い一つはつま先が、
茶色の一つはかかとが、
それぞれ剥がれたり擦り減ったりしていて、
買い替えが必要だと思い始めたところだった。
茶色の靴にめがいき、
好きなデザインで素材の良さそうなものがすぐに見つかり、
店員さんを呼んで25センチのサイズを出してもらい、
試し履きさせてもらいすぐ気に入り購入し、
そのまま履いて元の靴は処分してもらった。
気分良く事務所に戻って、
リュックから通帳やノートやiPadを取り出し、
ふとボールペンが見当たらないことに気付いた。
こういう時はたいてい、
いつもと違う場所にしまってある時だった。
でも、リュックの小さいポケットにも、
底の方を探しても、
いつもは財布しか入れないところを探しても見当たらない。
「そうか、上着の胸ポケットに入れていったんだった!」
そう気づいて急いで確かめたが、
戻ってすぐにハンガーにかけた上着には、
どこを探してもボールペンはなかった。
わー…
実は、
この大切にしていた、
と思い込んでいた大好きなボールペンが、
見当たらなくなったのはこれで3度目だった。
はっきり覚えている、
このボールペンはなくなっても戻って来るのだった。
今回までは…
一度目は、
市ヶ谷の事務所でなくなってしまい、
数日間が経っていた。
一度目のこの時の心境ははっきり覚えていない。
数日後、
後輩の胸ポケットに、
見慣れた緑色のペンが刺さっているのに気が付いた。
「ちょっとそれ見せて」
手に取ってみると、
ぼくが使っていたのと同じタイプのものだった、
ボディーを見るとぼくのイニシャルがあった。
「これぼくのじゃん」
「えっ?」
「そうしたの?」
「いや、その辺に置いてあったので…」
こんな感じだった。
まあ、
ホッとして嬉しかったと思う。
2度目になくなった時も、
数日間見つからなかった。
今度は数日後、
これも市ヶ谷の師匠がメインで使う部屋の、
ソファーの脇のペン立てに刺さっていた。
おそらく、
患者さんにカルテに記入してもらう時にお貸しして、
そのまま返していただくのを忘れて、
という経過だと思う。
結局、
同じ状況で2度なくしていた。
しかし、
この2度とも、
数日後に戻ってきたので、
「このペンは縁があるのでなくならない」
くらいにずっと思っていた。
しかし、
今これを書きながら思い起こしても、
このなくなり方は、
「本当に大切にしていたのか?」と、
ほとほと疑問だ…
上着にもない事を確かめたぼくは、
飲食店でノートを広げた事を思い出し、
すぐに電話番号を調べてお店に問い合わせた。
アルバイトらしき女の子の店員に説明して確認してもらったが、
ぼくの座っていたであろう席には見当たらないと言う。
すぐに事務所を出て自転車に乗り、
信用金庫に行った道をたどり、
使った信金のATM周囲を探り、
ついでに行った銀行のATM周囲を探し、
ついでに入った飲食店に戻った。
店は混雑してなかったが、
ぼくが座った席には、
男女のカップルが食事中だった。
奥にいる女の子の店員に、
おそらく電話に出てくれた彼女だと思うが、
事情を説明して確認させてほしい旨を伝えたのだが、
判断に困っている様子だった。
「申し訳ないけど責任者の人います?」
調理場から若い男性が出てきてくれて、
カップルに声をかけてくれ、
席をいったん外してくれた。
しかし、
くまなく席と周辺を探しても、
探し物は出てこなかった。
丁寧にお店の人とカップルにお礼を述べて退散した。
靴屋さんにも戻って、
ぼくのいた場所を探してもらったが、
やはり結果は同じだった。
『2度ある事は3度ある』
『3度目の正直』
いずれも、
今となっては耳に痛い言葉だ。
振り返ると、
大切だ、
大好きだ、
と言いながら、
ぼくはこのボールペンに細心の注意を注いでいなかったことになる。
起きる事には、
何かしらのメッセージがある、
と言うのは確かだ。
ましてや、
2度もメッセージを発信しているのに、
ぼくはそれを心に深く刻むことをしていなかった。
この様な事は皆さんにもあるのではないだろうか?
それは、
「ボールペン」のように、
物質だけとは限らないかも知れない。
大切な人からの『有り難いメッセージ』
それをないがしろにしていないか、
「もう一度気に留めてみた方がいい」
ぼくはそう肝に銘じた。
人は、
その時の器でしか『メッセージ』を受け取れない。
1度ならず2度起きた事が、
どんな『メッセージ』を含んでいるのか、
じっくり向き合う事を忘れないようにする。
そう肝に銘ずる。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
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天と地と人 すいなの信長正義
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